相続人調査
相続が発生すると、相続人の間で遺産分割協議を実施する必要があります。
その際に、必ずやるべきことがいくつかありますが、その一つが「相続人調査」です。
相続人調査をせずに遺産分割協議を実施した場合、トラブルが発生してしまう可能性があります。相続トラブルが発生すると、家族の仲が悪くなったり、調停や裁判のために弁護士費用や裁判費用が掛かってしまったりと、不都合なことが多く発生してしまいます。
そこで、相続人調査とはどのようなものか、相続人調査がなぜ必要なのか、説明いたします。
目次
相続人調査とは
相続人調査は、亡くなった人(被相続人)の財産や権利を誰が相続するのかを、戸籍謄本などで全員特定する調査のことです。
通常、相続人は、以下のルールで決まります。
1 被相続人の配偶者は常に相続人となる。
2 配偶者以外の親族は、以下の順番で、配偶者と共に相続人となる(配偶者がいない場合も同じ)。
① 被相続人の子(前妻との子や婚外子、養子も含む)
② ①がいない場合、被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)
③ ①も②もいない場合、被相続人の兄弟姉妹
しかし、上記の範囲に当てはまる親族であっても、「遠方に引っ越してしまった」とか、「長らく連絡を取っていない」などの理由で、自分たちでも把握していない相続人がいる可能性があります。
また、調査を実施した結果、「実は前妻との間に子どもがいた」、「養子縁組をしていた」などの事実が発覚することもしばしばあります。
では、なぜ相続人調査をする必要があるのでしょうか?
相続人調査が必要な理由
自分たちの把握していない相続人が存在した場合、なぜ相続トラブルが発生する可能性があるのか?
その理由は、遺産分割協議には相続人全員が参加する必要があり、協議結果をまとめた法的文書である遺産分割協議書には、相続人全員の署名・押印が必要となるからです。
相続人調査を実施せずに遺産分割協議を行うと、自分たちが把握していなかった相続人が突然現れて、「相続人全員の同意が必要」である遺産分割協議が無効になってしまう可能性があります。
その場合、再度遺産分割協議を実施する必要があり、時間がかかってしまうだけでなく、「自分の知らない間に遺産分割を勝手に決められた」など、相続人間の感情的な対立が発生し、場合によっては調停や訴訟で遺産分割をせざるを得ない原因にもなります。
被相続人が亡くなったら、できる限り早く相続人調査を実施し、不必要な相続トラブルのリスクを取り除きましょう。
相続人調査に必要なこと
相続が発生して、相続人が誰なのかを把握する「相続人調査」。言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、実際何をすればよいのか、についてはご存知でしょうか?
ここでは、相続人調査を実施する上で、必要なことを説明いたします。
相続人調査でやらなければならないこと
相続人調査は、主には被相続人の配偶者や子などの親族以外に、相続人に該当する人がいないかどうかを調査することを指します。
そのために、被相続人が家族の関係(婚姻関係、親子関係、兄弟関係など)を持った人を全て探さなければなりません。
相続人調査をするうえで、必要となる事は、下記の2つです。
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被相続人の一生分の戸籍(戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍)を集める
相続人調査の第一歩は、被相続人の戸籍を全て集めることです。重要なのは、徹底的に「生まれてから亡くなるまで」の全ての戸籍を集めることです。
なぜなら、結婚すると新しく別の戸籍に入ることになる(除籍といいます)ため、結婚前の過去の戸籍までたどらないと、被相続人の兄弟姉妹や両親、さらには甥姪などを把握することができないからです。
特に、被相続人に子がない場合、相続人は両親、両親もいない場合は兄弟になりますので、必ず「生まれたときから亡くなるまで」の全ての戸籍を集めましょう。
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相続人を確定する
戸籍に載っている被相続人以外の人物は、全て何かしらの家族関係を持っています。具体的には、被相続人の戸籍謄本には配偶者と子が記載されており、除籍謄本には被相続人の両親や兄弟姉妹が記載されています。離婚経験がある被相続人であれば、別の除籍謄本に以前の配偶者や子が記載されていることもあります(戸籍は結婚したり離婚したりするたびに新しくなるため、除籍謄本に記録されています)。
通常、配偶者は常に相続人となり、配偶者と共に相続人となる優先順位は、子(前の配偶者の子も含まれる)、親、兄弟の順番となります。
上記の2つは、相続人を確定するために必要な作業です。
被相続人の戸籍収集も大変ですが、相続人を確定するのは、専門知識を有していないと困難だと思います。そのため、相続人調査は相続の専門家に依頼すると確実でしょう。
戸籍の種類と収集方法
普段、身近ではない「戸籍」。しかし、相続が発生し、相続人を調査しなければならない場合、被相続人の戸籍を集め、相続人を特定しなければなりません。
戸籍の種類や収集方法を普段からご存知の方は少ないと思いますので、ここでしっかりご説明いたします。
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戸籍の種類
そもそも、戸籍とは、人の出生の事実とその年月日(+両親の氏名)、婚姻や離婚の事実とその年月日、養子縁組の事実とその年月日などが記載されたものです。
その中でも、大きく3種類に分かれます。
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戸籍謄本
→現時点での戸籍の情報をまとめたものです。現時点の情報ですので、婚姻・離婚、子どもの誕生、家族の死去などでその内容は変わってきます。
そのため、公的機関に提出するときの戸籍謄本は、たとえば3ヶ月以内など、できるかぎり最新のものを提出するよう決められていることが多いです。
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除籍謄本
→こちらは、すでに閉鎖された戸籍のため、変更されることがありません。死亡などにより戸籍内にいる人が全員いなくなることで、もともと戸籍謄本であったものが除籍謄本と変わったものです。
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原戸籍
→こちらも、すでに閉鎖された戸籍のため、変更されることがありません。除籍謄本と違うのは、原戸籍は法改正や様式の変更により、戸籍謄本を作り替える必要が発生した際の、古い方の戸籍を指します。
では、これらの中から、相続人を特定するためにどの戸籍をどのように収集すればよいのでしょうか?
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相続手続に必要な戸籍の収集方法
相続手続を行うためには、亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍に加え、相続人全員の戸籍謄本も収集しなければなりません。
そのため、請求する際に、「被相続人について、出生(または婚姻)から死亡までの連続した戸籍を全て各〇通ずつ必要」である旨を伝えるようにしないと、不足した場合、再度戸籍を取りに行くことになってしまいます。
また、戸籍内にいる人全員の住所が記載された「戸籍の附票」が必要になる場合もあり、こちらの収集もしておくべきです。特に、マンションや家など不動産の名義変更(相続登記)等の手続では提出が必須となります。
戸籍は、亡くなった人(被相続人)の本籍地の市区町村役場に請求することにより、取得できます。具体的には、本籍地の市区町村役場に直接行って請求する方法と、郵送で請求する方法があります。直接行く場合には、下記の3つのものを持参する必要があります。
・ 戸籍交付申請書(各市区町村が定める様式に必要事項を記載)
・ 印鑑(朱肉を使う印鑑であれば認印でも可)
・ 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
※戸籍の収集をする人と被相続人の関係が戸籍で確認できない場合は、その関係が確認できる戸籍が別途必要
郵送で請求する場合、下記の4点が必要になります。
・ 戸籍交付申請書(各市区町村が定める様式に必要事項を記載のうえ、印鑑を押印)
・ 本人確認書類のコピー(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなどのコピー)
・ 手数料に相当する定額小為替(不足した場合を考慮し、多めに同封)
・ 返信用封筒と切手
※戸籍の収集をする人と被相続人の関係が戸籍で確認できない場合は、その関係が確認できる戸籍が別途必要
最近は、市区町村によってはコンビニでの請求が可能な場合もありますが、導入していない地域も多いため、主に上記2つの方法で戸籍を収集することとなります。
戸籍収集の手数料と時間
相続が発生した時、忌引きの期間があっても、それ以降は普段通りに働いている方が多いかと思います。また、「戸籍収集(相続人調査)が重要」といえども、手数料や時間がいくらかかるのかを知らないと、思った以上の手間と感じてしまうかもしれません。
そこで、事前に戸籍収集を実施するために必要となる手数料と、書類を取得するときに要する時間を把握できるようにまとめております。参考にしてください。
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戸籍収集の手数料
戸籍収集でかかる手数料について、3つの戸籍の種類がありましたが、それぞれ取得に必要な手数料が異なります。また、基本的に現金での支払いです。
下記は役場の窓口で請求する際の費用です。
戸籍の種類 |
手数料 |
---|---|
戸籍謄本 |
450円 |
除籍謄本 |
750円 |
原戸籍 |
750円 |
戸籍の附票 |
300円 |
※岩手県盛岡市の例です
郵送の場合は、郵便局で上記費用相当分の「定額小為替」を購入して、申請書、切手を貼った返信用封筒、本人確認書類を同封して送付します。
そのため、手数料自体は窓口に請求する場合も郵送での請求の場合も変わりません。
では、どのくらい時間がかかるものでしょうか?
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戸籍収集の時間
市区町村役場で請求する場合、被相続人の本籍地が近くにあり、かつ窓口が空いていれば、10分少々で済むと考えられます。しかし、被相続人の本籍地が遠方にある場合は、その移動時間がかかりますし、交通費もかかってしまいます。
一方、郵送で請求する場合、被相続人の本籍地が同一県内であれば、普通郵便でも最短3~4日程度で取得が可能ですが、郵送で請求する場合は、だいたい本籍地が遠方にある場合ではないかと思います。
本籍地と自宅住所がどのくらい離れているかでも変わってきますが、本籍地が県外である場合、普通郵便で片道2~4日、往復では4~8日かかってしまいます。さらに、役場において戸籍をまとめて返送作業をするのが当日にできるとも限りませんので、最長10日前後かかってしまう場合があります。
急ぎの場合、往復ともに速達郵便を利用すれば期間は短縮できますが、速達分の費用が余分にかかりますので、郵送での請求をする場合は、余裕をもって実施しましょう。
戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍の見方
戸籍の種類は、全部で3種類あります。
現在の戸籍の情報をすべて記載した戸籍謄本、過去存在した戸籍で、現在は閉鎖している戸籍を記載した除籍謄本、法改正や様式の変更によって、使えなくなってしまったために閉鎖した旧様式での戸籍である原戸籍の3種類です。
ここでは、それぞれの戸籍の見方を、戸籍の参考画像とともに説明いたします。
戸籍謄本の見方
戸籍謄本は、現在の戸籍情報をまとめたものです。
記載されている内容は、下記の8つです。
・本人の氏名、本籍地、生年月日
・本人の両親の氏名、両親から見た続柄
・出生地と出生年月日、出生届を出した日、受理した自治体、届出した人
・結婚した年月日、結婚する前の本籍地、結婚届を受理した自治体
・配偶者の氏名、本籍地、生年月日
・配偶者の両親の氏名、両親から見た続柄
・配偶者の出生地と出生年月日、出生届を出した日、受理した自治体、届出した人
・配偶者の結婚した年月日、結婚する前の本籍地、結婚届を受理した自治体
相続が発生した際に、必ず把握したいのはこの中でも次の3つです。
・本人の本籍地
・本人の両親の氏名
・結婚する前の本籍地
本人の本籍地を把握することで、必要な書類をどこの市区町村役場で調べればよいのかが把握できます。本籍地と住所地は異なる場合があるからです。
また、本人の両親の氏名を把握すると、さらに両親の戸籍謄本(または除籍謄本)を取り寄せて、両親や兄弟姉妹の存在を把握することが可能です。両親の戸籍を取り寄せるためにも、結婚する前の本籍地を把握することが必要となります。戸籍は本籍地の市区町村役場に請求するため、必ず把握する必要があります。
除籍謄本の見方
除籍謄本は、結婚・離婚や死亡により、閉鎖された戸籍の情報を記載したものです。
除籍謄本に記載されている主な情報は、戸籍謄本とほぼ同じですが、下記の内容は必ず記載があります。
・戸籍からいなくなった人(除籍といいます)の情報
・戸籍からいなくなった人の原因(結婚・離婚、死亡など)とその発生日
・過去の家族の情報(先妻や先妻との子、兄弟姉妹など)
特に、以下の点が重要です。
・過去に被相続人と関係があり、相続人になる可能性がある人物が把握できる
離婚や死別のような婚姻関係の解消によって、被相続人が除籍されていた場合、前の配偶者との間に子がいれば、その子も原則として相続人になります。また、現配偶者との間の子と前配偶者との間の子で法定相続分は平等ですので、必ず除籍謄本から過去に婚姻関係があった人物を探し出しましょう。
改製原戸籍の見方
改製原戸籍は、法改正や様式の変更により、戸籍謄本を作り替える必要が発生した際の、古い方の戸籍を指します。改製原戸籍に記載されている主な情報は、戸籍謄本・除籍謄本とほぼ同じですが、法令で変更される前の戸籍の内容が記載されています。
先に説明した除籍謄本の中に「戸籍改製」という欄がありますが、この記載がある場合は、さらに改製原戸籍を取り寄せて、その改製原戸籍を参照し、被相続人の家族関係など、戸籍の情報を集める必要があります。
特に調査すべき内容は、下記の2点です。
・除籍謄本に記載されている本籍地よりもさらに以前の本籍地
戸籍は本籍地の市区町村役場でのみ請求可能ですが、被相続人の本籍地が出生から死亡までの間に移動している場合、除籍謄本だけではさかのぼりきれない場合があります。除籍謄本からは、法令によって様式が変わった年月日と理由しか記載されないため、それ以前の変更内容については記載がなくなってしまうためです。改製原戸籍では、どこから本籍地の転籍があったかを必ず調査して、転籍する前の本籍地の役場でさらに以前の改製原戸籍を請求し、調査をしましょう。
・除籍謄本に記載されていない被相続人の両親の情報
除籍謄本からは、法令によって様式が変わった年月日と理由しか記載されないため、被相続人の両親の情報を完全に把握することができない場合があります。
その場合も、改製原戸籍から両親の生年月日や本籍地、出生当時の戸籍の情報などを調査しましょう。
また、改製原戸籍の中でも特に古いものについては、手書きの旧字体で記載されている場合があり、難読な場合もありえます。その点にも気をつけて、調査を実施しましょう。
これらの3種類の戸籍の内容と、その中でも相続人調査のために注目するポイントについて説明させていただきました。戸籍の見方について、この説明を読んでも難しい、面倒だと思った方は、ぜひ相続の専門家である弁護士に相談してください。
相続人調査を専門家に依頼すべき理由
相続人調査は、戸籍の収集をメインに進めることになりますが、以下の理由から、戸籍の収集がなかなか進まない場合があります。
・市区町村役場の戸籍窓口は平日の日中しか開いていない
平日の日中は、ほとんどの方が働いてらっしゃるかと思います。しかし、戸籍を請求する市区町村役場の窓口は平日の日中にしか開いておらず、日中働いている人が行くのは困難だといえます。
・被相続人の本籍地が遠い
被相続人の本籍地が遠い場合、直接役場へ行くのはそれだけで大変です。また、郵送での請求をする場合も、郵便代や時間が掛かりますし、手書きで書類を記入しなければならない、切手や定額小為替を買わないといけないなど、手続が面倒です。
こういった手続を、漏れなく手間なく実施できるという点で、専門家に依頼するメリットは大きいです。
さらに、弁護士であれば、相続で揉めるポイントを把握しているため、早期にトラブルなく遺産分割を解決に導くことも可能です。
相続人調査は相続に強い弁護士に依頼しましょう。