亡くなった父に借金があるようなので相続放棄を検討しています。どういった手続になりますか?
相続放棄は時間的制約がありますので計画的に行う必要があります。
1 概説
相続は、被相続人の「死亡によって開始」し(民法882条)、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継」します(民法896条)。この「一切の権利義務」には、預貯金や不動産などの積極財産だけでなく、借金などの消極財産(負債)も含まれます。そこで、プラスの財産より負債が上回っている場合には、相続放棄を検討することになります。
相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)ので、被相続人のプラスの財産を引き継がない代わりに、負債を相続しないで済むことになります。
2 相続放棄の注意点
⑴ 期間制限
相続放棄をすれば、被相続人の負債を相続しないで済むことになりますが、相続放棄には期間制限があります。具体的に、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にしなければなりません(民法915条1項)。この3か月を過ぎると、「期間内に…相続の放棄をしなかった」場合にあたり単純承認をした(一切の権利義務を承継した)ものとみなされます(民法921条2号)。
前述のとおり、相続放棄をすると、被相続人の積極財産も消極財産も引き継がないことになります。そのため、相続放棄をするにあたり、事前に相続財産の調査をすることが多いと思われますが、この相続調査の期間も含めて考えると、3か月という期間はあまり余裕はないといえます。相続放棄の期間を延長してもらうこともできますが、別途、裁判所に対する申立てが必要となります。
相続放棄を検討している場合には、スケジュール管理を意識して動くことが大切です。
⑵ 法定相続に注意
相続財産の全部又は一部を処分した場合や相続放棄の後であっても相続財産の全部又は一部を隠匿したり消費したりした場合、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなる場合があります(民法921条)。
相続放棄を検討している段階では、遺品や相続財産の管理は慎重に行いましょう。
3 手続
相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に相続放棄の申述書と必要書類を添付して裁判所に提出することになります(申述)。必要な添付書類は各申請者ごとに異なる可能性がありますので、裁判所のホームページを確認するほか、不明な点があれば裁判所に問合せをしてみましょう。そのほか、収入印紙代や郵便切手も必要となりますので、この点もあわせて確認することをお勧めします。
申述をすると、通常、家庭裁判所から照会書兼回答書が送られてきますので、回答書に必要事項を記載して、裁判所に提出します。裁判所は、提出された回答書等をもとに相続放棄を認めるかどうかを判断します。そして、相続放棄の要件を満たしているとされれば、相続放棄の申述が受理され、裁判所から受理通知書が送られてきます。これで相続放棄の手続が終了します。
4 おわりに
相続放棄は弁護士等の専門家だけでなく、ご自身でもすることもできます。また、限定承認と異なり、相続人全員で行う必要はなく、1人だけで行うこともできます。ただし、限られた時間の中で計画的に財産調査や資料取り寄せ、書類作成などの準備を進めていくのはなかなか大変です。相続放棄に少しでも不安がある方はぜひお気軽に弁護士にご相談ください。
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